About予防接種について

「個人を守る」こと、「社会を守る」こと

世の中にはたくさんの病気がありますが、なんらかの病原体が感染することによってもたらされる病気のことを感染症といいます。一度感染症にかかってしまうと治療が必要になったり、時には重症化してしまうものもあります。しかし感染症の中には予防接種(ワクチン接種)によって予防できるものがあります。
ワクチンを打つことによって、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くしますがこれを予防接種といいます。予防接種は自分が病気にかかることを防ぐことに加え、人に感染させてしまうことも防ぐことができます。
つまり予防接種には、「個人を守る」ことと、「社会を守る」役割があります。
「個人を守る」ことで言えば、感染を防ぐことももちろんですが、たとえ病気にかかってしまったとしても、重症化を防げる場合があります。
「社会を守る」ことで言えば、人に感染させないことももちろんですが、みんなが感染に対する抵抗力をつけることで社会全体で感染症を防ぐことができます(これを「集団免疫」といいます)。

law予防接種法

ワクチンを規定する法律

ワクチンで防げる病気にはいくつか種類がありますが、その病気には頻度(かかりやすさ)や感染したときの重症度がそれぞれ異なっています。感染症予防上の重要度から、ワクチンには法律によって接種を推奨しているものがあり、この規定している法律を「予防接種法」といいます。予防接種法によって規定されているワクチンは、自治体が主体となって実施しており、「定期接種」と呼ばれています。
その一方で、予防接種法に規定されていないものは、個人が希望して各自でうけることになりますが、これは「任意接種」と呼ばれています。

定期接種

定期接種は都道府県や市区町村などの各自治体が主導し実施しており、基本的に公費負担(一部自己負担あり)となります。対象となる感染症の感染力の強さや致死率の違いにより、定期接種はA類とB類にわけられており、A類は努力義務がありますがB類にはありません。

【A類疾病】
※主に集団予防、重篤な疾患予防に重点(努力義務、接種推奨あり)
ジフテリア、破傷風、結核、ヒトパピローマウイルス感染症、百日せき、ポリオ、麻しん、風しん、水とう、B型肝炎、日本脳炎、Hib(ヒブ)感染症、小児肺炎球菌感染症、ロタウイルス

【B類疾病】
※主に個人予防に重点
インフルエンザ(高齢者)、高齢者肺炎球菌感染症

任意接種

任意接種は個人が希望しておこなうものですが、こちらは基本的に自己負担(一部公費負担あるものも)となります。定期接種ではないからといって重要でないというものではありません。海外では義務化されているものもあり、現在は任意接種でも今後定期接種に含まれる可能性もあります。

【対象疾患】
ムンプス(おたふくかぜ)、インフルエンザ(高齢者以外)、A型肝炎、髄膜炎菌感染症、狂犬病など

Vaccine typeワクチンの種類

ワクチンってどうやってつくるの?

ワクチンの原理は、その感染症を「疑似体験させる」ことで病原体に対する抵抗力をつけることです。病原体そのものにさらされてしまったら感染してしまうので、基本的には「弱らせたもの」や「病原体の一部分」を体内にいれることで疑似体験させます。
具体的な種類としては「生ワクチン」、「不活化ワクチン」、「トキソイド」があります。
(新型コロナウイルスで話題になった「mRNAワクチン」は別頁にて説明します)

  • 生ワクチン

    生ワクチンは病原性をきわめて弱くした病原体を体内に注入し免疫をつけます。ほかのワクチンと比べて免疫がつきやすく、少ない回数ですむものがあります。弱っているとはいえその病原体は生きているわけで、軽度で済むことが多いですが副反応としてその病気にかかったような症状が出ることがあります。

    【注射するもの】
    MR(M:麻しん、R:風しん)、水痘(みずぼうそう)、BCG(結核)、ムンプス(おたふくかぜ)など

    【口からとるもの】
    ロタウイルスなど

    注射する生ワクチンには抗菌薬が含まれているものがあり、エリスロマイシン、カナマイシンなどのマクロライド系抗菌薬にアレルギーのある方はおっしゃってください。また、ワクチン同士の影響があるため、次回の接種は27日以上あけることが必要です(口からとる生ワクチンにはその制限がなくなりましたが製剤によっては間隔をあけないといけないものがあります)。

  • 不活化ワクチン/トキソイド

    病原体を化学処理によって病原性をなくし、その成分を使用しているものが不活化ワクチンで、トキソイドは病原体が産生するトキシン(毒素)を無毒化したものを使用しています。

    生ワクチンと比べ免疫がつきにくく、小児の場合は複数回(第1期)の接種が必要となります。成人でも接種間隔をあけて複数回の接種が必要となるものもあります。生ワクチンと違ってワクチン同士の影響はないため、次回の接種までの間隔規定はありません。

田辺三菱製薬「ワクチン.net」HPより一部画像引用 (https://www.wakuchin.net)

ワクチンの具体的な種類

Administration method投与方法

注射による接種

注射をうけたことがある、またはみたことがある方がほとんどだと思いますが、そのときどこにうっていましたか?一般的に世間でつかわれている「注射」とは腕などに針をさすことをまとめて言いますが、これには「薬を投与するとき」と「血液を採取するとき」があります。ワクチン投与のときはもちろん「薬を投与するとき」になりますが、注射する場所によって「筋肉注射」と「皮下注射」にわかれます。

筋肉注射と皮下注射
皮膚の下に筋肉がありますが、筋肉注射は針を垂直に刺し、皮膚をつらぬいて筋肉にくすりを投与しますが、皮下注射は針を斜めに刺し、皮膚のすぐ下で薬液を投与します。

筋肉注射には①血流豊富で免疫獲得しやすい②局所反応(いたみや腫れ)が少ないといった特徴があります。皮下注射には①血管や神経の損傷リスクが少ない②ゆっくり吸収されるといった特徴があります。そのため、もともと免疫が付きやすい生ワクチンは皮下注射、局所反応がおきやすい不活化ワクチンは筋肉注射、というのが諸外国では一般的です。(不活化ワクチンは大量の抗原、アジュバント、添加物が含まれておりいたみや腫れ、発赤、肉芽形成などの局所反応がおこりやすい)

しかし日本では生ワクチンであっても不活化ワクチンであっても皮下注射が一般的です。
これは1970年代に解熱薬や抗菌薬を筋肉注射したことによる大腿四頭筋拘縮症の報告が多発したために筋肉注射自体が避けられる傾向になってしまったためです。免疫のつきやすさや局所反応の少なさからも今後筋肉注射をする機会が増えてくる可能性はあります。



日本小児科学会「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂第2版)」より引用
日本小児科学会「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」より引用
(http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20220125_kinchu.pdf)
(http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/doji_sessyu20201112.pdf)



口からの接種
ほとんどのワクチンは前述のように注射(皮下注射、筋肉注射)による投与となりますが、一部のワクチンは経口(のみこんで)投与します。代表的なものはロタウイルスワクチンになりますが、これは生ワクチンになります。ちなみに注射による生ワクチン接種では、ワクチン同士の作用を考慮して27日以上間隔をあける必要がありますが、経口生ワクチンは間隔をあける必要がありません(製剤によっては間隔をあけないといけないものがあります)。
ワクチンの具体的な種類